思い出ではなく、人脈を作ろう

留学では沢山の楽しいことがあります。自分の国、馴れた環境を飛び出して新しい環境、新しい仲間と過ごすということは、人生の中でも輝かしい記憶になることでしょう。

ですが、そのような楽しい時間を過ごすあまり本来の目的を忘れてしまうのはいただけません。どうしてその国に渡航したのか、どうしてその環境に身を置くことにしたのかということは、常に忘れてはいけません。語学留学であれ、その他の学業のための留学であれ、「目的」は必ずあるはずです。ただ長期間その国に滞在したいから、ただ長期間その土地にいたいからという理由では意味がないのです。学生時代というものは、後々になっても輝かしいものです。その時期を過ごしたからこそ、今の自分がいて、その時期に感じたことや考えたことなどはずっと自分の中に残り続けるものです。抱いていた夢が叶ったかどうか、目標に到達できたかどうか、「初心」を忘れていないかなど、自分のことを振り返る意味でも学生時代の頃の記憶は大切にしたいものです。

ですが、だからといって「楽しい思い出」だけがそこにあればいいかというと、それは違います。楽しい思い出があるから学生時代なのだということではありません。努力することも、挫折することも、悩むことも、楽しむことも、すべてひとつにして「思い出」です。学生時代は楽しいことを沢山しなければいけないということはありません。他の子がそうだから自分も目一杯楽しみたいということもわかります。学業など脇に置いて、好きなことを沢山したいということもわかります。学生時代は限られていると、考えるのは理解できるのです。

ですが、同時に「学ぶことに専念できる時期」もその時だけです。やがて社会に出ると、そのような「学ぶための時間」を作りづらくなるのです。働く責任を負うようになると、そのような「学ぶ時間」というものがだんだんとれなくなってくるのです。その時感じるのは、「あの頃にもっとしっかり勉強しておけばよかった」ということです。「あの頃」とは、すなわち学生時代です。

留学先ではさまざまな人と出会うでしょう。さまざまな人と出会ってさまざまなことで時間を共にするでしょう。どうせなら、その共にした時間で相手と仲良くなることの方が重要です。思い出を作ろうとすると、どうしてもその時だけのことになってしまいます。留学が終わったとしても、相手とコミュニケーションをとる手段は山ほどあります。「先につながる」ような人間関係を作ることの方が大切なのです。お互いに社会に出て、どのような仕事をするのかはわかりませんが、後々に何か自分が責任を持っていることで関わりあえるような、信頼できるような人脈を作ることにはとても価値があるのです。

人との関係はお金では変えません。時間をかけたとしても、すべての人と分かり合えるわけではありません。そのときにしか作れない人間関係、そのときにしか知り合えない人がいます。そのときにしか語り合えない話題があり、そのときにしか抱けない悩みがあります。ただただ楽しいことをすればいいというわけではありません。ただ学業以外に目を向けなければいいというわけでもありません。そのときにその場所でしか関わることができない相手と、しっかりと関係を築くのも大切なことなのです。